ビターチョコレート

そうして、早くも日曜日が来てしまった。
千代子に“風邪が治った”とメールをし、ネクタイを締める。


「さて、行くか」


俺は重い足取りで、親父との待ち合わせ場所に急いだ。


「…慎一、ここだ」


「遅れてすまん」


そう言って親父に駆け寄る。


「いや…時間ピッタリだ。行くぞ。」


そう言って歩きだす。


「…なあ、何で見合いなん？俺が嫌なん、分かってんねやろ？」


そう言うと、親父は目だけ、こちらに向けた。


「弟の慎二が先に結婚して…焦りは無いのか」


「あるわけ無いやん。別に、競争モンちゃうやろ？結婚て」


「お前は、しばらくしたら３０だ。」


と言って、スタスタと先に行った。


「…さっさと結婚しろって事かよ」


俺は頭を抱えた。


「ここだ。」


親父がそう言い、中に入る。
中でしばらく待っていると、誰かが声をかけてきた。


「やあ、森川くん。遅れてすまない」


そう言ったのは、うちの署長だった。


…恩師って、署長やったんかよ。
と今初めて知った。そばにいる、若くて着物を着た女が多分、俺のお見合い相手なのだろう。


でも…この女、どこかで…会ったか？
女は俯いているので顔は分からない。そう思っていると、女は顔を上げた。


「お前…！？」


俺は唖然とした。


「久しぶり…慎乃介。」


そう言って、女はニコッと笑った。
なんで俺の見合い相手が…Ｓ女…いや、佐藤奈々恵やねん。俺は少し目眩がした。