「ゲホ…ッ」


季節は春。
なのにどうやら、風邪をひいてしまったらしい。


体調管理ができていないのだと、自分を責める。


「体調管理もクソも無いよ。最近遅くまで仕事してたんだから、体弱ってたんだよ」


朝から仕事の明宏は、俺が寝ている布団の傍で座り、ネクタイを締めながら言った。


俺の脇で『ピピピ』と体温計が鳴る。
自分で体温を確認するが、明宏は『見せて』と手を出してきた。


「38.8度…今日は休みなよ」


明宏はそう言うと、上着を持って立った。


「自分で電話できるよね?」


「…子供扱いすんなよ。出来るちゅうねん」


そう言うと、明宏は笑った。


「じゃあ、俺看病できなくて申し訳ないけど、もう行くね。裕貴はまだ寝てるし…一応書き置きしといたけど、あいつも午後から仕事って言ってた」


「おお、気にすんな。行ってこい」


「じゃあ…行ってきます」


明宏はそう言うと、玄関に向かった。



バタン…


とドアが閉まる音が聞こえると、俺は上司に電話をかけて、そのまま眠りについた。






「……してもらってもいいですか?」


「いいよー。使ってつかって!」


リビングから声が聞こえる…。
俺はオデコに違和感を感じたが、すぐにヒエピタだと分かった。


重い足取りでリビングに向かう。
リビングには、何故か千代子の姿があった。


そして、ソファーには裕貴がコーヒーを飲んでいた。


「…なんでお前がここにおんねん?」


だるくて、壁に手をついてもたれかかりながら言った。


「駄目だよー。慎ちゃん。寝てないと」


裕貴がコーヒーをテーブルに置いて、こちらに近付いてくる。
…なんとなく、コイツが千代子を呼んだのだと、察知した。


「…お前やろ?裕貴。余計な事しやがって」


「えー?なにがあ?」


…コイツ、しらばっくれやがって。
俺は額に手をやり、ハーッとため息をついた。