冷え込んだ空気が、
手の甲をピリピリと
かじかませる。

タクシーから下りて、
目と鼻の先の自室へ、
なるだけ靴音が響かぬよう、
気をつけながら、
階段をのぼる。


今、何時だろ?
腕時計の時間を確認した。

佐伯さんを先に送って、
回ってもらったけど、
半時間も経ってないはず。

4時間近く、場所を変えつつ、
喋ってたと言うことになる。

声も、かれる訳だ。


佐伯さんとは、結構気が合って
会社の話だけでも
相当盛り上がった。


だけど・・・肝心な事は

やっぱり、志央の事は

話せなかった。


彼と、気まずくなった要因も、
話せなかった。



どこかで、
志央にも言ってないのに
・・・って、思って。


志央に話すべき事なんだ
って思ったら、結局、
相談すら出来なかった。

佐伯さんは、
無理に聞き出す気もないのか、
志央の『し』の字も、
口にしなかった。


それが、何だかホッとして、
比較的自分の事なんかは
結構話して、彼女も
そうなんだろうけど。

ほんと、この時間まで、
何年かぶりに、遊んでしまった。