「ねえ。」


彼が、声をかける。
私の手首を握って。


「何?」

「・・名前
・・なんていうの?」

呼び止めた割に、
会話の流れを逸脱した質問を
彼は、する。

もう、会うこともないだろう
彼に、わざわざ、名前を
教える必要性を感じなかった。


だから


「名前なら
好きによんでくれたら
いいわよ。」

そう答えた。

「はっ・・?」

彼が、手を緩めて、
戸惑いの声をあげる。


「名前なんて、
記号みたいなものだから。
それじゃあ、さようなら。」

補足と挨拶を口にした。


「ああ・・。
また・・ね。」


彼は、それ以上
関わろうとはしなかった。


そう。


これでよかったの。