尚道は基本的に大学の時間に合わせて起きるのに、最近はものすごく早い。



「ただいま~。よっさん、メシ~」

「何キロ走って来たんだ?」

「3キロちょっと?腹減った~…」



ある日突然、朝から走り出した。



最近の尚道は不可解なことばかりしてる。



音楽の才能なんかねぇくせにベース始めたり、朝から走ったり。



でもやたら楽しそうだ。



「ケン、醤油取って?」

「ん」

「あっ、昨日の夕方、お前の祖父さんから電話あったぞ」

「じぃさん…?」

「携帯知らないからって、固定電話に。折り返してほしいって」

「ん、わかった」



家業のことだ。



俺に継いでほしいんだと思う。



温泉街にある、老舗旅館。



息子である俺の親父がフランス料理の道に走ってしまい、跡取りがいなくなったから。



前からそんな話はされてたけど…俺が旅館なんて笑い話だろ。



でも、日本のじぃさんは好きだ。



日本に来たばかりの頃、言葉が話せない俺を受け入れてくれた。