校庭には部活をしている生徒の声が響く、その日の放課後。
早速友達になった一輝と恩と沙華は、3人仲良く部活の見学をしていた。
一輝の兄の後輩にあたる者が、1年生の教室に押し入り、目まぐるしく3人を移動させるだけであった。
校庭のハンドボール部の控えベンチに腰掛け、一輝は大きく溜め息をついた。

「大きな溜め息だな、こりゃ」
「うっさいなー、どこの部も『あなたの兄さんはね』って、俺とあいつらは関係ねーのによ」

一輝は、足下に置いた自分の荷物を一度だけ強く蹴る。
両隣に座っていた2人は、ただ苦笑するだけだった。

「でも、有名な兄さんなんだな、カズの上って」
「…佐野氏とは半分しか血は繋がってないけどな」

流れて行く雲をぼんやり見ながら、沙華は一輝の変わりに言った。
同時に恩が驚きの声をあげた。

「別にそんな驚くなって、色々と事情があんのさ」

そう言うと、誰かが一輝の肩を叩いた。

「佐野一輝ってお前か?」

(またか…)

一輝は、また先輩が部活紹介をしに来たのだろうか、と半ばうんざりしながら「そうですよ」と答える。
一輝は話しかけて来た人を確かめなかったが、恩と沙華は声の主を確かめ、表情を変えて、一輝を肘で小突いてやる。

「ん?なんだよ」
「佐野氏、小野寺!」
「誰?それ」
「担任、担任!」

一輝はやっと事の状況を把握し、肩を叩いた者を確認するため振り返った。
今年度から教員となった、小野寺典、だった。

「な、なんですか?」
「学担の藤原先生が呼んでたぞ」

先輩の次は先生か、と一輝は一つ息を吐いた。

「…これじゃ、本当に有名人だな、佐野氏」
「ほら、急げよ」
「先生、俺1人?めんどくせぇよ…」
「めんどくても1人でいくんだ」

小野寺は一輝を促し、一輝もしぶしぶ頷くと、校舎へと歩を進めた。
春の風は、意外にも強く、校庭の脇に植えてある木々の梢を強く揺らしていた。