[キボウタクシー]




憂鬱だ。


仕事帰り、人気のない路地を歩きながら、私は胸に渦巻いていた感情をぼそりと声に出してみた。

それと同時に冷たい風が吹いて、私は震えながらコートごと自分の体を抱いた。

短かった秋はあっという間に走り去り、冬の頭がもうじき顔を出す頃。

つい先日までは穏やかに髪を撫でてくれた風たちも、今は冷たい針で私をチクチクと刺してくる。

子供の頃は雪が降る度に庭を駆け回って、それ雪合戦、それ雪だるま、とはしゃいでいたものだが。

ピュアだった私の心は長い時の流れに浸食されてしまったようだ。

悲しいかな、今では雪が降る度にため息が出る。

大好きだった冬は今、苦手なものの1つだった。

厳密に言えば、今の私の心を沈ませている原因は他にあるのだが

冬の到来によるこの寒さと殺風景な景色が、少なくともそれに加担していることは明らかだった。



街灯だけが照らす道を私はずんずん歩く。

空にはびっしりと雲が並んでいて、おしくらまんじゅうをしていた。

どうやら太陽さんは今日はお休みの日だったらしい。