9月最後の日の朝。

下駄箱で「春瀬ゆき」と偶然会った。

神様からのプレゼントだったのか。

いつもは、大勢人がいるはずの下足室にその時僕と彼女2人きりだった。


土の匂いのする下駄箱。

舞い上がる砂ぼこりのせいで、いつも息を止めて靴箱を開ける。

先輩が落書きした壁の赤い文字『ラブ』…なんてのを見ながら、

なるべく普段通りに行動しようと思った。


だが僕のアンテナが反応する。

僕は顔を上げた。

そこには、朝とは思えない程の爽やかな彼女が立っていた。

どうしてその時、どんなに近くに彼女がいたのかはわからない。


隣のクラスの彼女の下駄箱は僕らの一つ向こう側のはずだった。


僕は、上靴を履くのも忘れ、彼女を見たまま固まった。

目が合ったまま、動けなかった。


しかも長く・・・僕には3分くらいに思えたがきっと3秒。


「あ、おはよ。」

春瀬さんは首を少し傾けて、ニコっと笑いながら僕に挨拶をした。

天使の笑顔・・・!!僕は、1年分の元気をもらった気がした。

「お、お、おおお!おはよ。今日はどうだい??」

どうだいってなんだよ。
日本語おかしいぞ。

僕は、喜びと緊張でうまく喋ることができなくなっていた。

とりあえず、笑顔返しに、僕も笑い返した。


「うふふふ。おもしろいね。神宮司くんって。」

彼女から発せられた言葉に、僕の脳の回転が追いつかなくなっていた。

僕は何も言えなかった。僕は驚きを隠せなかった。




知らないと思っていた。僕のこと。




春瀬さんは、僕の存在を知ってた。



しかも、名前まで知っていたなんて、僕は本当にびっくりしたんだ。



しかも結構覚えにくい僕の名前を―


ハッキリと覚えていてくれた。