電車が停車して間もなく、彼は突然立ち上がる。



「ここ」



 一切の予告なしの突然の行動は、あたしを戸惑わせる。



「え、あ、えと…あ、降りるんだね」



 あたしが聞いたときには、とうに氷室君は下車していた。声が届いているかも謎だった。


 駅名こそ知っていたものの、この駅での下車はあたしには初めて。


 出入り口すらも把握していない上に、それが数か所あるものだから、彼の姿を見失うわけにはいかない。


 ……何よりも、愛しさがあまりにあまって。広い背中を、一途に追った。


 まだ直接なんて、恥ずかしくて言えないけど…「大好き」です。



「どした?ぼーっとした顔して」


「してないもん!」



 隣に追いついて、同じペースで歩き出してしばらく。彼はあたしに尋ねる。


 氷室君のこと、考えてた…なんて、恥ずかしくて言えないけれど。あくまでも、ぼーっとなんてしていないことは、分かっていて欲しい。


 なんて、恥ずかしいと思ってばかり。このままでは、先が思いやられる。