「何も無いなら、俺教室戻るから」



 言えないよ……。



「あ………っ」



 行かないで、なんて口にしようと思う勇気すらなかった。


 氷室君は、もうここにいる意味はないもの。


 もうとうに、お弁当を食べ終わっている……。



 意味はない、と思えてしまう時点で。


 くっきり浮き出た溝を、あっけなく首肯しているのだけれど。



「……なんだよ、やっぱり何かあるのか?」



 ――――――胸の奥でつっかえてしまった何かが



「ごめん、なんでもないや」



 あたしの中から素直さを、丸ごと奪っていく。



 去っていく彼の顔を見たあたしの最後の表情は、苦笑いだった。