「ねぇ、次の日曜、遊びに行かない?」




 美波先輩からそんな提案があったのは、小雨が降り注ぎ、空が暗く重たく見える、そんなの昼時だった。


 会ってすぐにそんなことを言われたあたしと柚乃ちゃんはお互いに顔を見合わせた。




「じゅ、受験は……?」




 お互い、同時に美波先輩の顔を見て、柚乃ちゃんが恐る恐る問いかけた。


 まだ受験の最中なはずの美波先輩は、一瞬にしてピタリと笑顔が止まった。



 そして、ため息をはく。




「……疲れたの」

「え?」




 吐き出した声からも、その表情からも、疲れを感じることができる。


 受験勉強って、そんなに疲れるものなのかな。


 高校受験教科が少なかったからまだ幾分か平気だったけど……やっぱり大学受験は教科も多いし、難しいし、大変




「あの家、もうヤダ」




 ……え?家?

 勉強じゃなくて?


 まさかの言葉に、なんと発言したらいいか分からなくて、つい無言になってしまう。




「土曜日は図書館に行くからいいんだけど……日曜日は、つい遊びに行くって言っちゃったのよねぇ」




 もう一度ため息をはいた美波先輩の目の前で、あたしはつい思わずお弁当を抱きかかえている腕の力を強めた。


 “遊びに行く”って、そう言った相手はきっと、ううん、絶対に……佐久間先生。


 カノジョがいる、佐久間先生。




「家で勉強できないほど、家に嫌なことでもあるんですか?」




 柚乃ちゃんの問いに、美波先輩は伏せていた目を上げた。


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