「んっ」


目の前に手のひらを突き出す。


満面の笑みでチョイチョイと望みの物を催促するが、当の本人は視線が明後日の方向を向いていて、苦笑いを浮かべている。


自宅から近い、馴染みの練習場所であるスケートリンク。


いつものように練習していたら、幼馴染であるタクちゃんがやって来た。


タクちゃんはまだ私のことに気づいていない様子。


しめしめ、今日という今日は逃がさないぜ少年。


リンクには私を含めて六人が滑っている。


ほとんど顔見知りの人たちなので、事情をちょっと説明して盾になってもらう。


これでタクちゃんから私を確認することは不可能。私ってあったまいい!


スケート靴を履いたタクちゃんが、リンクに上がる。


私の顔見知りはタクちゃんにとっても顔見知りみたいなもの。