「行かんけぇ、俺」
「何で?」
「そん時はもう、この街におらん」

一瞬、その意味がわからなかった。
でもヒカルの横顔と、今のヒカルの状況を考えると、ピースがはっきりと繋がる。

俺は確かめる様に訊いた。

「…引っ越すの?」

その言葉に視線だけを向ける。口の端を少し上げて、「さすが秀則じゃの」と呟いた。

「母親の地元じゃ。実家には戻らんっち言いよったけぇ、多分アパートか何か借りるんじゃろ」
「…いつ?」
「さぁ…あの男から逃げれると思った瞬間じゃろうな。でも卒業式までには、出る」

ヒカルが『あの男』と表現した人物を、俺は知っていた。ヒカルの父親だ。

ヒカルが幼い頃からギャンブルと酒に溺れ、殆んど家にいなかった。親戚と言っても、まともに会話をしたことすらない。

それが最近、よくヒカルの家に顔を出す様になっていた。学校の帰り、お酒の香りをまといながら歩く彼とすれ違うこともあった。

状況は、理解できる。