背中にヒカルの体温を感じる。
回された腕。
慣れ親しんだ香水の香り。


後ろから抱き締められた腕に、あたしの涙が染み込む前に。


「離して…ヒカル」


振り絞る様な震える声。

ゆっくりとヒカルの力が抜けて、あたしの肩からヒカルの腕が離れた。

残されたのは、ヒカルの香水の香り。二度と消えないんじゃないかと思う程、あたしの記憶に染み付く。

そのままあたしは、振り切る様に駆け出した。

ヒカルを置いたまま。

全てを、置いたまま。










…校内に駆け込んだあたしは、人のいない特別教室の廊下へと向かった。

角を曲がり、しゃがみこむ。

息はきれていないのに、全力疾走した後よりも、胸が苦しくて仕方ない。

「…もう、いいよね」

ヒカルの声が。
ヒカルの香りが。
最後のヒカルの温もりが。

全てがもう、終わってしまった。

そう思うと、涙は止めどなく溢れ続ける。

校内に響かない様に声を殺して泣きながら、ただあたしは、ヒカルを想った。

…終わりは始まりだなんて、嘘だ。


中学三年の、夏の入り口。

誰よりも欲しいと願った人を、あたしはこの手で手放した。



あたしとヒカルは、終わった。