吹き抜ける風が、あたしの黒髪を揺らす。

微かに夏色を帯びてきたそれは、あたしの視線の先の茶色い髪も揺らす。


ドクンと鳴った心臓は、そのまま止まってしまうんじゃないかと思った。


止まってもいいと、思った。


あたしの足音に気付いてか、視線を上げる。

いつもと変わらない場所にもたれ掛かって、あたしに小さな笑顔を向ける。

その視線も、その笑顔も、何一つ変わらない。



…ヒカルだ。

ヒカルがいる。

あたしが誰よりも欲しいと願った、ヒカルが。


どうしよう。泣きそうだ。


「…遅いわ」


あたしに視線を向けたまま、笑って言った。
声を聞いたのも久しぶりで、喉の奥がくっと締め付けられる。

あたしは泣かない様に、必死に祈った。


「…こっちの台詞でしょ、」


小さく呟く。
その言葉にヒカルは「ほうけ、」と声を出して笑った。それで少しだけ、安心する。

ばれない様に小さく深呼吸をして、あたしはヒカルの側に向かった。