聞いた話で、こういうのがある。

ある夜だんしゃくは、角の長屋に住んでる一人暮らしの老婦人の家に入り込んだ。

老婦人はそのとき、テーブルでタラのシチューを食べてたらしいんだが、どういうわけか、だんしゃくを飼おうと思いついたんだ。老婦人てのは、何を思いつくか分からない。

それで、向かいにだんしゃくを座らせて、シチューと目玉焼きを出した。だんしゃくは、かんぺきなテーブルマナーでそれを食べ、(このへんは、かなりあやしい。いくらだんしゃくでも、ナイフやフォークが使えるわけがない。)最後にナプキンで口までぬぐってみせた。(ここも、相当あやしい。だんしゃくは口についた食べカスを気にするような、小さな器ではない。)

その夜老婦人はだんしゃくを、あんか代わりに抱いて寝たんだが、朝になってみると、だんしゃくは煙のように消えていましたとさ、という話なんだが、似ているけど全く別の話をこの間カフェで聞いたんだ。

横丁の長屋の老婦人が、だんしゃくにしつけを教えようとひざに乗せたら、だんしゃくは、一分だけがまんしておとなしくしていたが、そのうち「ニャフーン!」と叫んでテーブルに飛び乗り、飲みかけのお茶をそこら中にまき散らして出て行ったって。

こっちの方が現実味があると思うな、だんしゃくが一分もじっとしていられたかどうかは疑問だけどね。でもレディーが相手だったから、だんしゃくもちょっとは手加減したのかもしれないな。

もちろん、ノラネーコだんしゃくは気位が高いから、いつもいつも、そんなところで町人とたわむれてるわけじゃない。気取ったレストランや、ベルボーイがいるようなホテルに、好んで出没するのさ。なんていったって、「だんしゃく」だからね。