ノラネーコだんしゃくのことを知りたいなら、魚屋の前で、

「ノラネーコだんしゃく、今日はどちらまで?」と言ってごらん。

そうすると魚屋のだんなが血相変えて飛んでくるはずだ、手にデッキブラシを握ってね。
そうして、だんしゃくが、つるしておいたサケを丸ごとくわえてった話やら、生けすに飛び込んでヒラメをとっていった話やら、ごていねいに、骨だけになったヒラメを返しにきた話やらを聞かせてくれるだろう。顔を真っ赤にして、デッキブラシを振り回しながらね。そしてこう言うのさ。

「あのネコ野郎、今度会ったら絶対にとっちめてやる!」ってね。

ついでにパン屋にも、聞いてみるといい。

「ノラネーコだんしゃくは、こちらにおいでですか?」ってね。

そうするとパン屋の若い見習いたちが、のし棒持って奥から出てくるだろうよ。

そうして、冬の朝オーブンを開けてみたら、だんしゃくがヌクヌクあったまってた話やら、すすだらけになって煙突から落ちてきた話やら、それを捕まえようとした主人の足の間をすり抜け、今度は小麦粉の袋に突っ込み、最後には焼きたてのパンの全部に足跡をつけ、お礼のつもりか、しとめたネズミを1匹、置き土産に残して窓から出て行った話やらを、その時の主人の間の抜けた格好を再現しながら、面白おかしく話してくれるだろう。残念ながら、その後にのし棒でたたかれるのは、今度もだんしゃくじゃなく、その若い見習いたちなのさ、後ろにいつの間にか立っていて、鬼のような顔して話を聞いてる主人にね。

「お前ら、同じ話を何度もするんじゃない!さっさと仕事しろ!」ってね。自分がかっこう悪かったもんだから、きまりが悪いのさ。

この町じゃ、ノラネーコだんしゃくから悪さをされたことがないっていう人は、一人もいない。いや、本当は何人かはいると思うんだが、みんな、よそから聞いてきた話を、さも自分のことのように話すのさ。それに尾びれがどんどんついていくもんだから、最初はどういう話だったんだか、もう分かりっこない。