ケータイにはそれ以外、なんのメールも着信もない。




数ヶ月前の俺からしたら、ずいぶん鳴らなくなったケータイが、逆に誇らしくあった。





乙葉だけでいい−−−






この気持ちに嘘偽りはないのだから。






………にしても、






「アイツ、今日も来ないつもりか……?」






いつもなら客が引くこの時間には、だいたいカウンターに座ってこっちの様子をチラチラ覗いてくるくせに。





『あんまり来るな』とは言ってるものの、2日も続けて姿を見せないのは初めてだ。






しかも来れない日は、その理由をメールしてくる律儀なヤツなのに。






何か、あったのか……?






ガチャ−−






「あ、……」






画面を見ていた俺に少し驚いた声がして顔を上げると、





「ケータイにらんで、どうしたの?“微笑王子”」





客の間で“アンニュイ王子”と呼ばれているルイが、それこそドアにけだるそうに立っていた。





「っるせ… その呼び方すんな……」






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