「また一馬に何か言われた? こんなところまで連れてきて。代わりに謝っておくよ」

 彼は私に背を向ける。

「駅まで送る」

 そう言い歩き出した彼の腕をつかんでいたが、顔を直視することはできなかった。彼はその手を振り払うことはしなかった。

「私ね、怖かったの。傍にいなかったら私のことなんてすぐにどうでもよくなるって。だからなかったことにしようと思ったの。最初から何もなければ傷つかないから。でもどう頑張ってもそうはできなかった」

 私はそこで一呼吸置く。

「木原君のことは高校一年の四月から知っていて、ずっと憧れていて、遠い人だった。私のことを好きでいてくれると言っても実感がなかったの。だから、不安でたまらなかった」

 そのとき、目から熱いものがこぼれそうになる。その涙をこぼさないように目を強く閉じた。

 木原君の手が私の頬に触れ、涙を拭ってくれた。