「百合も父親が幸せになるならいいって考えていると思う。あいつも俺と似ていいて、意地っ張りで素直じゃない。いつも人のことばっかり考えてしまう。自分で言うと変な感じがするけど、そんな感じがする」

 彼の言葉は当たっていると思った。だから余計に切ない。私は唇を噛んだ。

 一馬さんの言葉はこれから私の言いたい言葉を奪ってしまった。

 彼はコーヒーを口に含むと、それをテーブルの上におく。彼のコーヒーに小さな波が立つ。

「由佳ちゃんにこういうことを言っていいのか分からないけど、俺がいなきゃ母さんはもっと幸せな人生を送れたんじゃないかと思うときがあるんだ。あんな最低なやつの子どもなのに、本当によく育ててくれたってさ。

俺、父親に似ているからさ、俺を見ているとあいつのことを思い出すこともあったんじゃないかって思ってる。だから、こうするのが俺にできる親孝行なんだ、と」