「そろそろ帰るね」

 木原君のお母さんが私の背中を軽く叩く。病室にいたのは二十分程だ。

 どこかホッとして病室の外に出ようとしたとき、文さん名前を呼ばれた。振り返ると文さんが私の迷いを見透かしているような笑みを浮かべていた。一瞬だけ、彼女が彼の母親に見えた。

「私がこんなことを言うのもおかしいと思うけど、あの子のことをお願いね」

 子供に語り聞かせるようにゆっくりと言葉をつむぐ。

 その彼女の様子にただ「はい」としか言えず、気の利いた言葉はでてこなかった。



 病室を出ると、木原君のお母さんに尋ねた。

「あの、病室にあったマグカップとマスコットって」

「あれは百合ちゃんが贈ってくれたの。雅哉と一緒に買いに行ったから、って。ちょうど夏くらいだったかな」

 私は以前、二人が一緒にいたことを思い出していた。あのときに買ったとは限らないが、その前後には購入していたんだろう。

「そのとき百合ちゃんから雅哉が一番大事に思っている人が選んだ品だからって言っていたの。随分可愛いプレゼントだったけど、姉さんも喜んでいたわ。あれはあなたの選んだプレゼントなのかしら?」