近くまで行き、声をかけようとしたが、その場に固まっていた。百合から表情が消えていたのだ。

「北田」

 木原君が彼女の名前を呼ぶと、彼女は髪の毛を抑えて振り返る。そこでやっと笑う。

 一人でいたから無表情だったんだろう。

「おはよう。晴実はまだ来てないよ」

 笑顔を浮かべる。まるであのときの表情が幻ではないかと思うほどだった。

「みんな早いね」