206[短編]

 彼女の部屋は普通の部屋という印象だった。木製の少し古びた机に古ぼけたタンスなどがあった。

「何か飲み物でも飲みますか?」


 用意された座布団に座った典子に彼女はそう語りかける。

「いえ、気を使わないでください」

 そう言ったが、そんなわけにはいかなかったのだろう。

 彼女は水色で花の描かれた湯飲みに緑茶を注ぎ、典子に差し出してくれた。

 典子は断るのも悪いと思い、そのお茶を飲み干した。

 それからしばらくして典子の携帯に一通のメールが到着する。

 メールの差出人は夏江だった。

 彼女のメールには親が事故に遭ってしまい、急に家を出なければいけなくなったことが書かれていた。

 彼女の実家は同じ県内にあるが、学校に通うには遠いので大学の近くで一人暮らしをしていたのだ。

 帰るときに携帯の電池が切れてしまっていたので、一度実家に帰って充電をしてメールを送ってきたのが今だということだった。


 前もって連絡をしてくれればとは思うが、急なこともあり難しかったのだろう。

 そのことを親切に部屋に入れてくれた彼女に告げると、家に帰ることにした。

 彼女の家を出ると、先ほどの雨が気にならなくなっていた。雨が弱くなった今の内に一気に家に帰ることにした。