206[短編]

「あの、どうかなさいました?」


 その声は声質のせいか、雨にかき消されることなく、典子の耳に声が届いていた。


 顔をあげると、そこには端整な顔立ちをした黒髪の女性の姿がある。

 彼女は黒髪とは対照的だと思える白のワンピースを身に纏い、目を細めると笑っていた。

 女である典子でさえ、思わず見ほれてしまいそうな笑みに戸惑いを隠せないながら も会釈を浮かべる。


「友達と待ち合わせをしていたんですけど、まだ帰っていないみたいで」

「そうなんですか?」


 彼女は驚いたように目を見開いていた。彼女の視線が典子の髪や洋服に向けられ るのが分かった。

「もしよろしかったら私の家で雨宿りをしませんか?」

「え?」

 願ってもない申し出であったが、自らの体がぬれていることを考えると、素直にそれを受け入れることは出来なかった。

 だが、断りを入れる前に、彼女の言葉が届く。

「気になさらないでください。風邪でも引いたら大変ですよ」

 彼女は典子を見て、笑顔を浮かべる。

 どこか人の良さを感じる笑顔を見て、典子は彼女の申し出を受け入れることにきめた。