206[短編]

 それから一ヵ月後、夏江の家に行くことはなかった。典子の言ったことを気にしていないのか、夏江から何度か家に来ないかと誘われたが拒んでしまっていたからだ。


 だが、今日は勝手が違っていた。

 今朝、夏江から電話がかかってきた。

 電話を取って、受話器の向こうの彼女がいつもと違うことに気づく。

 彼女は時折咳をし、言葉の節々もはっきりしない。

 聞くと熱があり、今日学校を休みたいとのことだった。律儀にもノートのことを頼むために典子に電話をしてきたらしい。

「分かった。風邪薬とか解熱剤は飲んだ?」

「そういうの買ってなくて。飲んだほうがいいのかな」

 熱は出しておいたほうがいいとは聞くが、念のため薬は常備しておいたほうがいいかもしれない。

 典子は夏江のことが心配だったこともあり、彼女の家によって学校に行くことにした 。