車に乗って、10分もなかったと思う

家の前に先生が車を止めてくれた

レンもあたしの家の門の前にバイクを止めると、後部座席に走り寄ってきた

ドアを開けようとレンが手を伸ばすが、ぴくっと手を止めると、眉尻を下げて悲しげな目であたしを見た

「ミズ…開けていいか?」

レンが、あたしに気を遣うように質問してきた

あたしは頷くと、レンが車のドアを開けてくれる

「立宮先生、送っていただきありがとうございました」

あたしは頭を下げると、助手席の椅子に額をぶつけた

「あたっ」

「大丈夫?」

立宮先生が、振り返って心配そうな顔をしてきた

「ああ、大丈夫です。いつものことですから」

あたしは苦笑しながら、ぺこぺこと頭を上下に振った

「妃木さん、無理しなくていいから。学校、今日は休んでもいいよ」

「ありがとうございます。今からじゃ、完全に遅刻ですね」

あたしは「あはは」と笑いながら、車を降りた

「あ、立宮先輩って…」

「大丈夫だよ。頭を斬って、出血が激しいらしいけど。病院で、診てもらってるってツバキから連絡が……あっ。登校中の生徒から聞いたから」

立宮先生が、頬を少し赤らめながら口にした

「そうですか。平気なら良かった」

「ごめんね。あいつのせいで、妃木さんを危ない目に合わせちゃって」

あたしは下を向くと、唇を噛んだ

『平気です』って言葉にしたいけど、身体はすごく正直で、用具室での出来事が脳裏に浮かぶと、全身が勝手に震えた

「たぶん、今日は休むと思います」

レンの手がそっとあたしの手を掴んだ

びくっと肩が反応したが、すぐにレンの手だと脳が理解して、拒否反応が顕著に出ることはなかった

レンが立宮先生に軽く頭を下げると、後部座席のドアを閉めた

すぐに立宮先生の車が静かに発進し、路地を曲がって行った