入学して最初に部活に行った日だった。
まだ肌寒さの残る放課後の部室。
忘れ物を取りに行った俺が見たものは
幼き日の俺の姿と重なった。
ただ、ボールを拭いている人。
俺の大好きなボールを
汚れたボールを磨いてくれる人の姿に、胸が熱くなった。
それが「鈴子」だったんだってことは、それからしばらくして気付いたんだけど…
ジャージのポケットからはみ出したピンクの毛…
あれが、俺が鈴子を意識した瞬間だったのか。
だめだよ・・・
俺は、不器用だ。
何もかも同時にうまくやれる隆介とは違う。
恋愛をすれば、野球がだめになる。
俺は野球を愛しているし、野球ができればそれで幸せなんだ。
なのに、
あの鈴子の涙が、気になって仕方がない。
俺の大好きなボールを磨いてくれる人。
俺が元気がないと、背中を叩く人。
俺のストレートを見て、感動してくれた人。
君は、罪な人。
俺を 変えてしまった人。