蝉の恋

「知らずに済む事は知らないままに…か。

まぁ、アンタらしいわね。」

「知らなければ、その事実は無いのと同じだからな。」

相手に知られるようなヘマはしない。

知れば相手は十中八九、泣き崩れるだろう。

誰かを不幸にしてまでセフレは作るもんじゃないだろう。

「知らなきゃ、事実がないのも一緒ねぇ。

じゃぁ、誰にも内緒でアタシとシテみる?」

イタズラっぽく、しかも妖しく笑うコイツは本気なのか冗談なのか判別がつきにくい。

まぁ、どっちだろうが回答は決まっている。

「阿呆が。」

ベシっ、と効果音が鳴るほどに綺麗なチョップを頭頂部に叩き込む。

「冗談よ。」

相手はクスクスと笑いながら、焼酎に変わっていた杯を一気に空にした。