蝉の恋

「ことになっている?」

「実際には殴ってねぇからな。

サシで会って、『ウチのがご迷惑おかけしました』って言って帰って来ただけ」

酒を煽りながら女は「変な所で優しいのね。」と首をかしげる。

「優しくなんかねぇよ。相手も罪悪感満々ってツラしてたからな。

殴られた方が精神的には楽だったかもな。」


その時、奥のテーブルから下品な笑い声とともにイッキコールが店内に響く。

目の端を動かして見れば3対3の男女が盛り上がっている。

合コンだろう。

よく見ればイッキコールとは全く関係なく、うっとりとしている女とその耳で何かを囁いている男がいる。

あたりを見渡せば他のテーブルでもイロイロな意味で頑張っている男を見ることができた。

……必死だな。

その場にいればまた見方が違うのかもしれないが、離れた位置から見れば、必死さが憐れにも見えてくる。