蝉の恋

「アイツだよ。」

「アイツって…?」

「…」

俺はポツリと一人の名前を呟く。

呟いたのは俺の彼女の名前。

「嘘っ。」

驚きに歪む女の顔。

こんな話題でなければその百面相振りは面白い。


「それで?」

女は顔を取り繕い俺に先を促す。

今は驚くことより話の先を聞くことが有意義と判断したようだ。

コイツのそういう頭の回転が早いところは気に入っている。


「それでって…。ケジメはつけるさ。」


「……ケジメってあんた…。暴力はいけないよ。」

…………誰がそんなこと言った。

「まぁ、散々ほったらかしにしてきたからな。」


ポツリと呟く。

目の前に座っている相手にも聞こえない位の小言で……。

「何年目だっけ?」

付き合ってから何年目か?という問いだろう。