紅芳記


唇が離れ、真っ直ぐに見つめられました。

私の顔は更に熱く、顔から火がでてしまうのではないのかと思うほどです。

それをお察しになられたのか、信幸さまはまた優しい笑みを浮かべられました。

「わしは、果報者じゃな。」

突然、何を言い出されるのでしょう。

「本多殿がよくあれ程大事にしておられた姫をくだされたわ。」

「…え?
私は、陪臣の姫ではならぬといわれた為に徳川の養女となったと…。
この輿入れは徳川より嫌々押し付けられたのではないのですか?」

「確かに、父上は陪臣の姫ではならぬと仰せではあったが徳川の姫ならばとむしろそなたを迎えるのに賛成じゃった。
しかし、本多殿は大事な姫を手放しとうないようでな。
秀吉が仲介してこの婚儀が決まったのじゃ。」

そう、だったのですか。

父上が…。