殿は、小山にいらっしゃる。
殿のご様子を少しでも知れて、僅かながらも落ち着きを取り戻してきました。
それよりも、気になるのは…。
「大殿と源次郎殿は、会議の後、すぐに犬伏を発たれたのじゃな?」
「はい。
左様にございます。」
「何処に向かったか、わかるか?」
「…恐らくは、上田に。」
「…で、あろうな。
西方の石田治部少様の軍に合流するにしても、東海道は内府様が抑えておる。
さすれば、使えるのは中山道じゃ。
上田城は、その通り道。
治部少様は中山道を押さえて、内府様の軍を足止めするなり、そこで戦をするなりせねばならぬ。
そうすれば、治部少様と、会津の上杉軍とが、内府様を挟み撃ちする事も可能じゃ。」
ほぼ間違いなく、一度軍を整える為にも、内府様を迎え撃つとしても、上田城に戻ることでしょう。
そうなれば、ここ、沼田城は大殿の軍の通り道となる…。
「奥方様、この城は、大殿様の軍の通り道にございます…。」
家臣もその事に気付き、青ざめた顔をしています。
同じ家で、戦をしなければならぬのか、と。
それは、絶対に避けたい。
大殿と、私達とが戦をすれば、流れるのは同じ真田家の血でございます。
そればかりか、真田家の弱体化に繋がることも、考えられます。
戦だけは、回避しなくては。


