「世都、そなたが見聞きしてきた物を全て話してくれ。」
「はい。
私は奥方様の命を受け、進軍する真田軍を外から張っておりました。
そして、殿は宇都宮に、大殿は犬伏に、それぞれの陣を敷いて、会津に向かう前に休息をとっていらっしゃいました。
しかし、犬伏の大殿の陣に、石田治部少様の密使が現れたのでございます。
密使が言った内容は、恐らくお殿様が書簡にしたためられたものと同じでかと。
石田治部少様の挙兵を知った大殿は、急いで宇都宮に使いを出し、お殿様はすぐに犬伏に参じられました。
私も密かにそのお殿様の後を追い、犬伏に参りましてございます。
犬伏に着いたお殿様は、大殿と源次郎様と、薬師堂に籠られて会議をしていらっしゃいました。
薬師堂は完全に人払いがされており、近づいた者は斬り捨てられた程でございます。
その為、そこで何が話されたかは存知上げませぬが、刀のぶつかる音が聞こえましたので、かなりの激論になっていたのではと、思います。
話し合いの末、お殿様が徳川内府様に、大殿と源次郎様が石田治部少様に与する事になったのは変わりませぬ。
その後、大殿と源次郎様は犬伏を去り、お殿様が一人になった隙を狙って奥方様宛のこの書簡をお預かりし、私は沼田城の奥方様の元に走りました。
お殿様は今頃、下野国の小山に軍を引き連れていらっしゃるはずでございます。
この傷は、沼田城に戻る道中、見知らぬ家のものにやられました。」


