紅芳記


それから、十数日後の事でした。

城の周辺の守りを固めてはいるものの、相変わらず沼田城では平穏な日々が続いております。

しかしそれは、嵐の前の静けさに過ぎませんでした。

「お、奥方様!
お世都殿がっ!!」

家臣の一人が慌てた様子で部屋に駆け込んで来たかと思えば、世都が急に戻って来たとのことです。

「腕に矢傷を受けております!
それから、奥方様に火急の知らせがあるそうでございます!!」

「わかった、すぐに参る。」

世都が休んでいる部屋に入ると、世都は左腕に受けた矢傷を手当てしているところでした。

「世都、何があった!?
傷の具合は!?」

「傷は大事ございませぬ。
油断してしまっただけでございます、それよりも、大変な事になりましてございます。」

「何じゃ、申してくれ。」

「はい、その前に、こちらはお殿様からの書簡でございます。」

そう言うと、世都は傷のない右腕で書簡を差し出しました。

それを受け取り、中を開くと確かに殿の花押があり、殿からのものであるとわかります。

問題は、その書簡の中身でございました。

『十七日、石田治部少殿、徳川内府様に対して増田、長束、前田連署で挙兵。
二十一日、犬伏にて石田治部少殿より密使あり。
真田家は、儂と、父上及び源次郎とが決別した事により二分、我は徳川軍に、父上らは石田治部少殿に御味方する事と相成った。』