紅芳記


真田軍が沼田城を出立したのは、文月の初頭。

真夏の暑さが照りつける中、大殿と信繁殿、殿はそれぞれ、上田、沼田の手勢を率いて、下野の宇都宮で内府様と落ち合う手筈となっております。

そうして、宇都宮で態勢を整え、会津に侵攻、上杉家との戦となります。

しかし、何故でしょう、殿が城を発たれてから、胸騒ぎが致します。

「ふじ、ふじはおるか。」

「はい、奥方様。」

「何やら胸騒ぎがする。
世都をこれへ。」

「只今。」

ふじが下がってから程なくして、世都が参りました。

世都は既に、何かを察した表情をしております。

「世都。
何やら胸騒ぎがするのじゃ。
殿を追い、何かあればすぐに知らせよ。」

「は。
どうやら、方々で動きがあるご様子にございます。
西がきな臭い動きをしていると、以前佐助殿が申しておりました。」

「西が…?」

「はい、此度の上杉征伐、直江山城守様と石田治部少様のはかりごととも噂されておりまする。」

「…何と。
それは、油断ならぬことじゃ。
頼むぞ。」

「畏まりました。
しからば。」

世都は風と共に、私の目の前から姿を消しました。

嫌な予感が、当たらなければよいと願うばかりでございます。