紅芳記


翌朝、会津出陣は家臣達にも伝えられ、戦に向けた準備が始まりました。

一気に城内が慌ただしくなり、甲冑の鳴る音や、武器のぶつかる金属音が絶え間なく響いて来ます。

奥向きでも、兵糧などの準備に追われておりました。

「小松、少し良いか。」

「はい。」

私は殿に呼ばれ、家臣達の前に出ます。

そこには、矢沢殿をはじめとした重臣達が勢揃いしていました。

「皆忙しい中すまぬ。
この戦には、将兵の多くを連れて行く事になっておる。
城代の矢沢、家老の鈴木、我が弟も皆参陣する。
よってその間、この城の守りは、小松に任せる。
我らが出立した後は、小松の言葉を我が言葉として、その命に従うように。」

殿は堂々と宣言されました。

これ迄、何度もあった戦では、家臣の誰かが城代として、城の守りを固めていた為、私が城代となるのは初めての事でございます。

何故、今になって私が城代となったのか、その理由を知るのは、少し時間が経ってからの事でございました。

ーー私が、沼田に残る家臣達と、民の命を預かる…。

「殿、城の事はお気になさらず、存分にお勤めください。」

私は覚悟して、殿に頭を下げました。

そして家臣達に

「この城の守りは、私が預かった。
我が父本多忠勝、そして真田家の名にかけて、見事に守り抜いてみせようぞ!」

と宣言しました。

家臣達は一斉に頭を下げ、これを受け入れてくました。

その後、家臣達が退出すると、殿に抱き寄せられて、

「小松、何があっても、揺らぐでないぞ。
儂は、小松を信じる。」

と小さいながら力強い声で言われました。

私は殿の目を見、

「お任せ下さいませ。」

と返します。

「流石じゃな。」

私の返事を聞くと、殿は優しい目で私を見つめられて、そのまま自然に口づけられました。

真田軍が沼田城を出立したのは、それから程なくの事でございました。