「義姉上、父上達は…?」
昌親殿は、小さく呟くように言いました。
「まだ、何も。
今もお話し合いをなさっておりますよ。」
「左様にございますか…。」
よくよく見ると、昌親殿の手が少しだけ震えていました。
私が手の震えに気づいたのを感じたのか、昌親殿はすっと手を引きました。
「申し訳ありません。
義姉上と佐助が居なくなって、一人になった途端、急に不安になってしまいました。
我ながら、情けないとは思うのですが。」
「誰しも、初陣とは不安になるものでございますよ。
大丈夫、殿のことを信じてついて行ってくださりませ。
今宵は震えが無くなるまで、こちらにいらっしゃればようございます。」
「良いのですか?」
「勿論。
ただ、不安は兵に伝染するもの。
貴方も、平井郷の兵を率いて一隊の将になるのでしょう?
その時は、決して揺らいではなりませんよ。
今の内だけです。」
「はい、義姉上。」
昌親殿の目に火が灯ったような感覚がし、一瞬、強い眼差しを垣間見ました。
このお方も、真田の血を引く武将なのだと、確信します。
それから二人で、殿達の会議が終わるまで、何かを打ち消すように、他愛のない会話をして過ごしました。


