紅芳記


されど、されど上杉家が義は我等にありと声高に主張したところで、内府様はそれを握り潰しておしまいになるのではございませんでしょうか。

いいえ、むしろこれを逆手にとって上杉家と豊臣家の間に亀裂を入れる事も容易い…。

所詮は女の浅知恵、この程度の事は、大殿も殿もきっと考えておいでのはず。

だからこそ、今、人払いをしてのお話し合いをされている。

「昌親殿は、戦になったらどうするおつもりで?」

私は思わず昌親殿に問いました。

「戦になれば、私も参陣するつもりです。
これが、私の初陣でございますれば。」

「左様でございますか…。
どうか、お気を付けて。」

「はい!」

初陣。

昌親殿が戦に行くのは、これが初めての事。

まだ十五のあどけなさの残る若武者を送り出さねばならぬのは、少しばかり心が痛みました。

二人の間にわずかな沈黙が流れると、部屋の中に突風が吹きました。

「奥方様、内匠の若様、ご無礼を。」

忍びの佐助の風でございます。

内匠の若様とは、昌親殿の通称です。

「大殿方に至急お知らせしたき儀がございます。
人払いをされているとのことでしたゆえ、奥方様にお取り次ぎ願いたく参じました。」

「大殿に?
此度の戦のことか?」

「左様。」

「わかった。
暫し待て。」

人払いをしている時は、その部屋には何人も近づく事ができません。

それでも至急の用がある場合は、このように私から取り次を行う決まりになっていました。