紅芳記


殿たちの話し合いは人払いをされていたため、私は自室で一人、縫い物をして終わるのを待つ事にいたしました。

子供達がすくすくと育っていってくれているため、着物がすぐに小さくなってしまうのです。

源三郎の肌着を縫い始めると、昌親殿が訪ねて来られました。

「義姉上、少しよろしいですか?」

「ええ、もちろんでございますよ。
如何されました?」

「いえ、さしたる用事ではございませぬが、何となく落ち着かなくて。」

「ならば、こちらで良ければゆっくりと落ち着くまで居られませ。」

「忝うございます。」

ふじに昌親殿の敷物を用意させると、昌親殿は遠慮気味に敷物の上にお座りになりました。

そういえば、昌親殿とこうして二人きりになることは中々に珍しいことでございます。

普段、昌親殿は平井郷にお住まいですし、領内の統治の話し合いの席には大抵他の家臣もおりますゆえ。

昌親殿には、私が嫁いできた頃の幼い印象は影を潜め、あの頃の殿によく似たご立派な若武者ぶりです。

先に言葉を発したのは昌親殿でした。

「父上達は、内府様による上杉征伐の従軍の是非について、お話し合いになっているのですよね?」

「左様にお伺いしております。」

「実は、先日前田慶次様がお見えになった時にある物を、拝見致しました。」

「ある物、とは?」

「はい。
直江山城守殿が内府様に宛てた書状の写しでございます。」