紅芳記


庭の土に書き残された大ふへん者の文字は、慶次殿らしく豪胆で潔い字で書かれています。

「大武辺者とは、慶次様は豪胆なお方でございますね…。」

私がそれを大武辺者、すなわち非常に武勇に優れた者と解釈すると、殿は顎に手を当てて考えられ、苦笑しました。

「いや、あの慶次殿のことじゃ、まわりが小松が読んだ様に大武辺者と言って驚いたところで、大不便者だと言い返されるであろう。」

「大不便者?
戦さ場で大不便者の旗を掲げるおつもりなのでございますか?」

「ま、どちらでも読める様に仮名で書いたのであろ。
いやいや、流石は慶次殿ぞ。」

殿はすっかり感心していらっしゃいますが、私にしてみれば呆れ半分、笑い半分と言った心持ちでございます。

この野分の如き慶次殿のお訪ねから間も無くのこと、内府様による上杉征伐の号令が出されました。

慶次殿の仰せられた戦とは、きっとこのことだったのでしょう。

直ぐに大殿、殿、信繁殿が城の一室に集まり、話し合いをお始めになりました。