紅芳記


日が沈んでから、かなり経った頃、殿のお帰りを告げる先駆けがございました。

それを受けて、仲橋が嬉々として表へ向かいます。

私はそれを見送り、少しばかり体調が良くなったため、まんと戯れておりました。

近頃のまんは言葉を覚えて、なんともおませな姫になってきておりまする。

それが可愛らしく、ついついまんばかりをかまってしまいます。

「ははうえ、ちちうえがおかえりでございますか?」

「ええ、左様じゃ。」

「まんは、ちちうえにえをかきました!
はやく、さしあげとうございます!」

「まあ、良きことじゃ。
母にも見せてはくれぬか?」

「だめです!
ちちうえに、いちばんに、おみせしとうございます!」

「そうか、それは残念じゃ」

私が悲しむ素振りを見せると、まんは瞳を潤ませて、

「では、ちちうえといっしょに、みてくださいませ!」

と言って力一杯抱きしめてきます。

どうにもまんは父上、父上と殿を慕っているゆえ、このような仕草が可愛いらしくてついついからかってしまいます。