紅芳記


翌日、お天道様が東から昇って暫く経った頃。

私と殿は堺の港町におりました。

殿は私の希望通り、馬にて外出させてくださいました。

堺の港町は、さすがは天下の台所とでも申しましょうか、それはそれは賑わっておりました。

大坂の街が此れ程までに栄えているのは、ひとえに太閤殿下のお陰と存じます。

「そこの別嬪の奥方さま!
ひとつ、簪なんて如何でございましょ!?」

「いやいや、こちらの帯など宜しゅうございましょ?
西陣から仕入れた一級品でございますよ!」

「ちょっと待った!
ここら瀬戸内の海で採れた魚を食べてからお買い物してくれまへんか?」

彼方此方から声を掛けられ、どれもこれも素敵で何かと目移りしてしまいます。

「そうさの…」

殿は顎に手を当てながら品物を手にしては、次々と買って行かれます。

「殿、さすがに買いすぎでは御座いませぬか?」

「そのようなことはないぞ!
この所お役目続きで、儂の私財はたんとある!
おお、この簪も良いの。
買うとしよう。」

殿は上機嫌に買い物をし、その殆どを私にくださいました。

久方ぶりの息抜きということもあり、私はありがたくその贈り物をいただきました。

そして、まんとまさ、源之助にも持ち切れないほどお土産を買い、夕日の頃大坂屋敷へ帰りました。