紅芳記


真田家の大坂屋敷についてから、取り敢えずは広間に赴きました。

私も、とのに付き従います。

真田二分に伴って、大坂方と京方に別れた家臣達。

なかでも、殿には若いものと、重鎮の少し歳をとったものがおおく付くこととなりました。

その、改変された家臣団の前に、本日のことを殿御自らお伝えになられます。

当の殿は、至って上機嫌なご様子でございました。

「小松!
そなたがあったからこそ、今日は上手くいきおった!
礼を申す。」

開口一番に殿は、そう仰せになりました。

私はなんのことかと、つい首をかしげてしまいました。

「そなたとの婚姻関係あってこそ、父上の策は現実味を増すのじゃ。
それに、今日は思いがけず本多殿と話が出来た。
それが一番大きい。」

「は、はあ…」

「奥方様、殿の仰せの通りにございます。
奥方様がいらっしゃいますゆえ、徳川と懇意にして不自然さが無くなると言うものですぞ。」

「左様、小松がおらなんだら、あの江戸中納言殿にはもっと怪しまれていたであろう。」

「中納言様に、で、ございますか?」

中納言様は、まだお若く、そのようには見えませんが…。

私がそんな風に考えている間に、殿達の話はどんどん進んでいらっしゃいました。

「殿、その、内府様(*徳川家康)のご嫡男の江戸中納言様とか申されるお方には、ご注意めされよ。」

殿との会話の合間に、重鎮の者が呟きました。

「無論じゃ。
あのもの、かなりの切れ者のようじゃ。
すでに、わしらの目的のなんたるかを見抜いておっても不思議はないわ。」

「さすがは、内府様の御せがれと申すところでありましょうな。」

どうやら、殿達は中納言様をかなりの傑物と見ているようでございます。

あの、大人びた七つの頃を思えば、確かに成長なされた今、そのように評価を受けても納得なような気がいたします。