紅芳記


その、道中。

懐かしい顔を目にすることが出来ました。

実の父上が、ちょうどお勤めを終えて、徳川大坂屋敷に帰って来るところに、鉢合わせとなったのでした。

父上も、目をまん丸にして驚いていらっしゃいました。

「い、稲か…?」

そう私にお尋ねになる父上は、私の記憶よりもずいぶんと老け込んでいたよな気がいたしますが、変わらず屈強そうな武者であらせられました。

普通、女は嫁いだら、それまでの家族とは特別なことが無ければ会うことは難しいものでございます。

偶然の再会に、思わず喜びが湧き上がります。

「父上…。
お久しゅう、ございます…」

「お稲!
見違えたぞ!
元気にやっておるか!?」

「はい。
父上こそ、お変わりなく、何よりにございます。」

「そちらは、真田伊豆守様であろう。
伊豆守様、…娘はよくやっておりまするか?」

「本多殿、いや、これほどまでに素晴らしき姫は他に見たことがござらぬ。」

「殿っ!」

「ははは!
いや、良かった、久しぶりに娘の元気な姿が見れて、一安心じゃ!
これからも、稲をお頼み申す。」

「いや、こちらこそ、縁有って親戚筋となったからには、末永う、お付き合い願いとうござる。」

それから、父上はお勤めが残っているとのことで、大坂屋敷の奥に行ってしまわれ、私達も家路を急いだのでした。