紅芳記


しかし、不可解なのは、私もこの場に同席させていただけたこと。

これほどのこと、大殿であれば普段は警戒して、私は利世殿と共に別室で待たさせることが多いのです。

それに、今この場には源次郎殿と利世殿だけがおりませぬ。

何か、あるのではないでしょうか。

「で、じゃ。
源三郎、そなたらは大坂に居を移せ。」

「ち、父上…?」

「そなたらは、大坂にて徳川につけ。」

「なっ…!」

それは、つまり。

「今の徳川の力、侮り難い。
いや、いずれは脅威となるともかぎらぬ。」

つまりは。

大殿は、真田家を二分するお考えなのでございます。

御自らは、不満を持ちつつもあくまで豊臣家の支えとなり、殿には万一のため、徳川家に取り入れ、と。

「されど、何故私が…」

殿は、顔をしかめましたが、すぐにハッとなさいました。

「小松…」

「左様。
“徳川家”の者を妻とした、そなたにしか叶わぬ役目よ。」

たしかに、私の父は徳川家の家臣で、養父はその徳川の当主。

真田家の中で、誰よりも殿が適役なのは一目瞭然。

しかしながら、何故、今なのでしょうか。

「ふむ。
これは、一族が二分するのではないぞ。
我等が一つとなるために、そなたらは大坂にやるのだ。」

「は?」

「佐助に調べさせた。
近頃、太閤の身体が芳しくないらしい。」

…まさか。

「彼奴も歳ゆえな、いつくたばるとも知れぬ。
さすれば、後見にはその時一番力のあるものを付けるであろう。
秀頼君は、まだ子供じゃ。」

…徳川家にとって、それはまさに、内から豊臣を崩す、絶好の機会…。