この日、殿と大殿はお二人で伏見に出仕していらっしゃいました。
どうも雲行きが怪しく、一雨来そうでございましたゆえ、家のものが総出で雨戸を閉めておりましたところ、殿達が御帰りとの先駆けの使いが参りました。
「ふじ、そなたらは急ぎ殿達をお迎えする支度をせよ。」
雨戸は数人の下女に任せ、ふじは私の装束を整えてくれ、仲橋らは部屋の支度に当たらせました。
御帰りはまだ先であろうと油断しておりましたため、屋敷内があれやこれやと慌ただしくなってしまいました。
打掛を羽織って居住まいを正したところで、開門の声が聞こえて参りました。
駕籠が玄関に着き、大殿と殿が広間においでになりました。
「まったく、あの老人猿めが!」
大殿はいつに無くご立腹のご様子にございます。
「父上、今少し落ち着かれませ。」
「いや、あのサル、まるで話にならぬ!」
「あなた様、如何なされたのでございます?」
御前様が大殿にお尋ねになりました。


