紅芳記


「失礼致します。
まん姫様をお連れ致しました。」

その声の後、襖が開き、まんがユキに抱かれて来ました。

「ユキ、大儀であった。」

殿がそう言うと、ユキは一礼して下がりました。

殿は腕の中のまんを、石田様にご覧にいれます。

「さ、治部殿。
まんに御座る。」

「おお、なんとも可愛らしい。」

石田様はそう言って、殿から勧められるまま、まんを抱きました。

石田様のお顔に、自然と笑みが綻びます。

「赤子とは、かようなまでに可愛らしいものであったか…」

「はは、治部殿。
泣いておるぞ。」

「いや、これは失敬。
つい…」

「ま、致し方あるまいて。
女子は命を育てることが出来るが、男は奪う事しか出来ぬ。
たまに、とんと虚しゅうなる時があるでな。」

「はは、わしもじゃ。」

石田様は、きっと今日の惨劇を思われていらっしゃいます。

私も、一生忘れられないであろう、それを。

このお方は、他人に何と言われようと、太閤殿下の盾となるお方。

そのために、汚れ役とも言える今日の監視役として三条河原にいたのだわ。

それでも、この表情を見れば、必死に太閤殿下をお諌め申し上げたのだとわかります。

この方は、大きな悲しみを背負っていらっしゃる。

とても、大きな。

「…生みまする。」

思わず言葉がもれました。

「男が奪った命の数より、もっとたくさんの命を、女子が産んでみせまする。」

「小松…」

「はは、奥方殿はお強いお方だ。」

「…わしもそう思う。」

「殿っ!」

三人とも笑い声が上がります。

「奪った命より多くの命を…。
まるで、古事記の、イザナキのミコトじゃな。」

「それでは、男と女が逆ではないか。」

「それもそうじゃ。」