紅芳記


「小松!」

部屋を出られてから、半刻もしないうちに殿が戻って来ました。

「殿…!?
石田様は?」

「はは、連れてきてしもうた。」

「ええ!?」

「奥方殿、失礼つかまつる。」

と、殿の後ろから石田様が顔を出されました。

「石田様!」

私はお客様に見苦しい姿を見せまいと、身体を起こします。

「あ、いや、そのままで。
楽にされませ。」

「されど、お見苦しゅうございましょう…」

「そんな事はござらぬ。
ささ。」

そんな訳で、私は褥に押し戻されました。

「奥方殿、ご懐妊、おめでとうござりまする。」

「これは…。
ありがとう存じます。」

「治部殿の御嫡男はもう十であったか。」

「ええ。
もう手もかからず、やっと楽になり申した。」

「はははは。」

「赤子であった頃が懐かしゅうござりまするぞ。」

「おお、そうじゃ。
…誰ぞおらぬか!」

殿が部屋の外に声をかけると、ふじが顔を出しました。

「ふじ、まんをこれへ。」

「は。」

「…殿?」

「まん殿とは…、確か、伊豆守殿の御息女にござったな。」

「左様。
せっかく来てくだされたのじゃ、宜しければ、抱いてくだされ。」

「おお、それは、それは。」

石田様は、嬉しそうに微笑まれました。