紅芳記


未の刻(*午後1時)になり、才蔵が殿の使いとして参りました。

その才蔵の指示で、町娘の格好に着替え、忍び足で屋敷を抜け出しました。

そして今は、京の町を三条河原に向けて歩いている所でございます。

「全く、殿は貴女に甘い。」

「え?」

才蔵も同じく町人に変装し、重そうな篭を背負いながら歩いております。

「上洛を簡単に許すわ、今回だって、本当は屋敷の内に囲って、見せたくなんてなかったでしょう。
……どんだけ溺愛してるんだってーの。」

最後はボソッと聞きとれるぎりぎりくらいの声でしたが、私は真っ赤になってしまいました。

「ったく、若殿二人とも女に骨抜きじゃねーか。
って、大殿様が一番そうか。
あぁ゛ー、大丈夫かよ俺の主君!」

しかし、才蔵の独り言はもうしばらく続きました。

「…才蔵!
才蔵!!」

「え…!?
あっ、聞こえてました!?」

「そんな事は良い!
着いたようじゃ。」

三条河原と思われる所には、木の柵の前に多くの群衆がおりました。

まだ五十間(*90mくらい)程先ではありますが、群衆達の声は良く聞こえて来ます。

「やめろぉー!!」

「この人で無し!!」

「女まで殺すこたぁねーだろー!!」

「太閤は人殺しの鬼じゃ!!」

「やめさせろー!!」

物凄い声に、私も気後れてしまいました。

「あーあ、凄い事になってますねー。」

「参るぞ。」

「え゛!?
あん中に突っ込むんですか!?」

「何をしに参ったのじゃ!
ほれ!」

「ったく、本当にお姫様かよ。」

才蔵の軽口を聞き流し、群衆を掻き分けて私達は柵の前まで出ました。

ちょうどその時に、柵の内に一人の武将と大勢の男達、縄に繋がれた姫や幼子が来ました。