紅芳記


葉月二日の朝、世都から再び書簡が届きました。

『本日、京、三条河原にて、秀次公の奥方様及び若様姫様、そしてその侍女を、処刑致す由。』

と、その書簡には書いてありました。

思わず書簡を手から落とし、はっと致しました。

早く、この書簡を燃やしてしまわねば。

ここしばらく、ずっと置いておいた火鉢を寄せ、中に書簡を入れて燃やし尽くしました。

そして、私は殿の許に急ぎました。

「殿、しばし、よろしゅうございましょうか。」

「何じゃ?」

「はい。
少しばかり、外出を致したく…」

「ならぬ。」

「え?」

殿は私を部屋の奥に入れ、向かい合って座るようになさいました。

「小松、そなた、知っておるな。」

「な、何の事にございましょうや。」

殿は声を押し殺し、

「亡き秀次公の事じゃ。」

と仰せられました。

「さ、さあ、何の事で…」

「しらばくれるでない。
才蔵からすべて聞いておる。
忍びの娘を飼っておると。」

「と、殿こそ何故ご存知なのです。
その件は未だ、公にはなっていませぬに。」

「……はあ。
我は真田家ぞ、忍びに詮索のひとつやふたつ、させておるに決まっておるであろう。」

「うっ…。」

「頼むから、大人しゅうしてくれ。」

「…い、嫌にございます!」

「何じゃと?」

「殿にご迷惑はかけませぬ!
何卒、私の知りたいという事を阻まないで下さいませ!」

「ならぬ。」

「殿!
…きゃっ。」

私は頭を深く下げましたが、殿は私の両肩を掴まれて無理矢理起こして参られました。

「どれだけ心配したと思うておる!
一歩間違わば、どうなるともしれぬのじゃぞ!!」

「わかっております…」

「いや、わかっておらぬ!
わしは、そなたが大切なのじゃ!
危ない目におうて欲しゅうない!
何故それをわかってくれぬ!!」

「と、殿…」

「…すまぬ。
しかし、わしは本心から申しておる。」

殿は私の肩から、そっと手を下ろされました。